大阪地方裁判所 昭和59年(ヨ)1807号
申請人
里見豊
右訴訟代理人弁護士
戸谷茂樹
同
出田健一
同
東垣内清
同
永岡昇司
被申請人
株式会社有元重量運輸
右代表者代表取締役
有元弘
右訴訟代理人弁護士
宮﨑乾朗
同
稲垣喬
同
板東秀明
同
森英子
同
上田裕康
同
伊丹浩
同
藤田健
同
京兼幸子
同
山川富太郎
主文
申請人が被申請人に対し、雇用契約上の地位を有することを仮に定める。
被申請人は申請人に対し、金二三〇万円及び昭和六〇年三月以降第一審本案判決言渡しに至るまで毎月末日限り金二五万円を仮に支払え。
申請人のその余の申請を却下する。
申請費用は被申請人の負担とする。
理由
(当事者の求めた裁判)
一 申請人
1 被申請人は、申請人を被申請人の従業員として取扱い、昭和五九年五月末日限り金一八万二三〇五円及び同年六月以降毎月末日限り金三六万四六一一円を仮に支払え。
2 訴訟費用は被申請人の負担とする。
二 被申請人
1 本件申請をいずれも却下する。
2 申請費用は申請人の負担とする。
(当裁判所の判断)
一 以下の事実は当事者間に争いがない。
1 被申請人は機械運搬及び据え置(ママ)け請負を業とする株式会社(資本金四〇〇万円、従業員一二名(申請人を含む。))であり、申請人は被申請人に昭和五四年八月三〇日に入社し、以後運転手兼機械据え置け作業員として勤務していた。
2 被申請人代表取締役有元弘(以下「有元社長」という。)は、昭和五九年四月一〇日、申請人に対し口頭で懲戒解雇の意思表示(以下「本件懲戒解雇」という。)を行った。
二 被申請人は、本件懲戒解雇事由として別紙一記載のとおりの事実が存し、同事実はそれぞれ同別紙記載の被申請人就業規則の条項(懲戒解雇の事由を定めた条項)に該当する旨主張し、申請人は、本件懲戒解雇は解雇権を濫用するもので無効であると主張する。そして、疎明資料によれば、被申請人就業規則(以下、単に「就業規則」という。)には別紙二のとおりの条項が存することが一応認められる。
そこで以下、被申請人主張の各懲戒解雇事由について検討し、次いで本件懲戒解雇が解雇権の濫用に当たるか否かを判断する。
1 下請従業員田中政博に対する暴行傷害行為の主張について
(一) 当事者間に争いのない事実及び疎明資料によれば以下の事実が一応認められる。
昭和五八年四月一日午後一〇時頃、申請人が被申請人の下請従業員である田中政博他二名とスナックで私的に飲酒中、両者が口論となりスナック前の路上に出た。路上において申請人が田中の胸を一回平手で突いて自己の自動車の方へ行きかけたところ、田中は長さ約一メートルの角材を右手に持って申請人に対し殴打してきた。申請人はそれを左腕で受け、右手拳で田中の左頬を一回殴打するとともに、その場に座り込んだ田中の脇腹と背中を一回づつ足蹴にし、更に、喫茶店に逃げ込んだ田中の顔面を右手拳で一回殴打した。このため田中は全治約一週間を要する顔面・右背側腹壁打撲、口腔挫創の障害を負い、完治後も五本の歯の歯茎がぐらぐらする後遺症が残った。
その数日後、田中の勤務先である藤原重機の伊藤専務が右田中の行為について被申請人と申請人に対し謝意を表し、申請人も有元社長に「田中に見舞いを持って謝りに行くよう」説得され、被申請人の他の従業員を通じて見舞品を田中に渡した。更に約二週間後、申請人と田中が出会った際、申請人は謝意を表し、田中は見舞品の礼をした。
(二) 右申請人の暴行行為は就業規則七〇条六号に当たる。しかしながら、右暴行行為が私的飲酒上の口論に端を発してなされ、被害者田中の角材による殴打行為後になされた申請人の暴行行為によって田中の傷害が生じたと一応推認できる上、その後の経緯によれば田中と申請人は一応仲直りがなされたと推認できるので、田中が被申請人の下請従業員であること及び同人に生じた傷害の程度を考慮に入れても、右暴行行為に対し懲戒を行うのに減給を越えた処分を行うのは著しく酷であって社会通念上相当として是認することができない(なお、就業規則は、同規則七〇条六号と同趣旨の事由を譴責、減給の事由として規定していないが、形式的には懲戒解雇事由に該当するが懲戒解雇に処するのが酷と評価できる行為に対してはその情状に応じ懲戒解雇より軽い懲戒処分を行うことができると解すべきである。)。
なお、疎明資料によれば、田中は申請人の右暴行行為について昭和五九年五月一五日告訴を行っているが、同告訴が右暴行行為から一年以上経過してなされ、かつ本件解雇後になされていること及び田中が右告訴までの間に申請人に対し右暴行行為について非難・不満を表したと一応認めるに足る疎明が存しないことに照らせば、右告訴がなされたとしても、右暴行行為後申請人・田中間に一応の仲直りができたとの認定は覆らない。
2 錦製作所における服務規律違反及び作業ミスによる第三者加害行為の主張について
(一) 当事者間に争いのない事実及び疎明資料によれば以下の事実が一応認められる。
昭和五八年七月五日、大阪府守口市所在の錦製作所の門の間に駐車中のトラック荷台上で、申請人が鉄製バール(長さ一・二メートル、直径二・五センチメートル)を使用して機械の積込み作業をしていたところ、トラックの横を通行中の錦製作所社員の頭部に右バールが当たり、同社員は加療一〇日の頭頂部打撲挫滅創の傷害を負った(なお、申請人がバールを振り回したと一応認めるに足る疎明は存しない。)。
右作業中、申請人は地下足袋ではなくサンダル履きで作業していた。
(二) 被申請人は、バールが錦製作所社員に当たって傷害を負わせたことが就業規則七〇条八号に当たると主張するので判断するに、事故の態様から申請人は事故発生時左右の確認をせず作業をしていたため右事故を発生させたと一応推認できるので、本件事故は申請人の過失によって発生したといえ、申請人の同行為は形式上就業規則七〇条八号に当たる。しかしながら、右申請人の過失は比較的軽い過失といえ、また、同じく事故の態様から被害者の錦製作所社員も自己の通行中であることを申請人に知らせなかったと一応推認でき、このような被害者側の過失も右事故の原因になったといえるのであるから、右申請人の行為に対し懲戒を課するとしても譴責処分を越えた処分を課するのは著しく酷であって、社会通念上相当として是認することができない。
次に、被申請人は、サンダル履きの作業行為が就業規則二九条二項二号、一五号に該当し、七〇条一九号に当たると主張する。しかしながら、右サンダル履きは就業規則二九条二項二号、一五号に該当するものの、わずか一回の違反であり、申請人が長期間サンダル履きで作業していたことを一応認めるに足る疎明は存しないのであるから、同違反は就業規則七〇条一九号の「その情の重いとき」に当たらず、また、同規則六九条一八号に当たるもののこの違反に対して懲戒を課することには疑問があり、懲戒を課するとしても、譴責処分を越えた処分を課することは著しく酷であって、社会通念上相当として是認することができない。
3 スミダ電機株式会社における不注意事故及び被申請人会社に対する報告義務違反の主張について
(一) 当事者間に争いのない事実及び疎明資料によれば、昭和五八年一二月二二日、福島県相馬市所在のスミダ電機株式会社相馬工場内において、被申請人の得意先東洋機械金属株式会社からの依頼により、申請人他一名がプラスチック成型機を搬入していた際、同成型機が工場入口ドアに衝突し、同ドアを破損させたこと、同作業の責任者であった申請人が右事故発生の報告を被申請人に行わなかったこと、及び後日東洋機械金属株式会社から被申請人に対し右事故について抗議があったことが一応認められるが、右事故が申請人の過失によって発生したことを一応認めるに足りる疎明は存しない。
(二) そうすると、右事故発生が就業規則七〇条八、九号に当たるとの被申請人の主張は失当である。
次に、申請人が事故の報告を行わなかったことは、少くとも就業規則二九条二項一四号に該当するので服務規律に違反する行為であるが、その規則違反は比較的軽微なものであるから、同七〇条一九号の「その情の重いとき」に当たらず、また、同規則六九条一八号に当たるものの、この違反に対し懲戒を課するのに譴責処分を越えた処分を課するのは著しく酷であって社会通念上相当として是認することができない。
4 エビナ工業株式会社内における事故の主張について
(一) 当事者間に争いのない事実及び疎明資料によれば、以下の事実が一応認められる。
昭和五八年一二月三〇日、静岡県田方郡大仁町所在のエビナ工業株式会社内において、機械据え付け作業終了後、据え付け用資材を被申請人トラックに運び込むため、申請人以外の被申請人従業員数人でエビナ工業株式会社所有のフォークリフトに据え付け用資材を過積載しその後申請人が運転していたところ、構内道路の凹凸にフォークリフトの車輪がつまずき、そのため積載していた資材が荷くずれを起こし、近くに停車中の有限会社大藤工業所のトラックの一部を破損させた。
申請人は右運転時に道路の凹凸の存在及びフォークリフトに過積載されていることを認識していたが、ゆっくり運転すればバランスを失わないものと考えていた。
被申請人会社においては資材を運搬するのにミック(人力で運搬する五〇〇キロ積み運搬具)を使用することになっており、当日もミックを持って行っていた。
(二) 申請人はミックを使用せず、また道路の凹凸及びフォークリフトの過積載の事実を知りながら、ゆっくり運転すればバランスを失わないものと安易に考えてフォークリフトを運転したため右事故が発生したのであるから、右事故は申請人の過失によって発生したといえ、少くとも就業規則七〇条八号に当たる。しかしながら、右過失の態様及び過積載が他の被申請人の従業員によってなされたことを考慮に入れれば、右行為に対し譴責処分を越えた懲戒処分を課するのは著しく酷であって、社会通念上相当として是認することができない。
5 被申請人会社事務所内における被申請人会社代表取締役有元弘に対する暴言及びそれに続く会社倉庫内におけるハンマーによる殴打の主張について
(一) 疎明資料によれば以下の事実が一応認められる。
昭和五九年一月二四日午前九時頃、有元社長が申請人に対し朝のあいさつをしたところ、申請人が後記わだかまりの気持でもって「おはよう。」と大声で言ったので、有元社長も「そんな態度やったら、わしも考えるで。」と申請人にどなり返した。その二〇分後、申請人は威嚇のため現場作業に使用するハンマー(柄の長さ約一・二メートル、金属部分の長さ約一七センチメートル、直径約七センチメートル)を手にして被申請人会社事務所内の有元社長に対し「社長考えるとはどう言うことやね。ハッキリ言うてくれや。わしにやめろと言うことか。」等と大声で言った。これに対し、有元社長が冷静に話し合うよう申請人を説得し、申請人もこれに応じた。
申請人が有元社長のあいさつに対し、「おはよう。」と大声で言ったのは、申請人が希望していた北海道出張の仕事に選ばれなかったことで有元社長に苦情を言った後、しばらく有元社長が申請人のあいさつに返事をしなかったことへのわだかまりがあったためである。
その余の被申請人主張の事実は、被申請人提出の疎明資料によっても一応認めるに足りない。
(二) 右申請人がハンマーを手にして有元社長に大声で言った行為は、少くとも就業規則七〇条六号の「他人に脅迫を加えたとき」に当たる。しかしながら、右行為は有元社長のどなり返した行為に誘発されたものであり、右行為後有元社長の説得に応じたことを考慮すると、同行為に対し減給処分を越えた懲戒処分を行うのは著しく酷であって、社会通念上相当として是認することができない。
6 アイスター研究所内における不注意事故及び報告義務違反の主張について
(一) 当事者間に争いのない事実及び疎明資料によれば、昭和五九年一月三〇日、横浜市みどり区所在の株式会社アイスター研究所内において、乳化試験機をトラックから地上に降ろす為他の被申請人従業員がクレーン操作をしていたのを申請人が誘導していたところ、同研究所建物の廂にクレーンが当たり、廂に一〇円硬貨大の穴が開いたこと、右作業の責任者であった申請人は、その直後応急措置を行い、立会いのアイスター研究所社員の了解を得たが、被申請人に報告をしなかったこと、及びその後、被申請人に乳化試験機据付依頼をしたみずほ工業から被申請人に、連絡及び修理がなされなかったことについての抗議がなされたこと、以上の事実が一応認められるが、右事故が申請人の過失によって発生したことを一応認めるに足りる疎明は存しない。
(二) そうすると、右事故発生が就業規則七〇条八、九号に当たるとの被申請人の主張は失当である。
次に、申請人が事故の報告を行わなかったことについては前記3(二)と同様の理由により、譴責処分を越えた懲戒処分を課するのは著しく酷であって、社会通念上相当として是認することができない。
7 同僚の北田孝に対する暴行傷害行為の主張について
(一) 当事者間に争いのない事実及び疎明資料によれば以下の事実が一応認められる。
申請人は、昭和五九年二月二一日午前八時頃、被申請人会社構内において、同僚の北田孝が申請人の朝の挨拶に応ぜず、他の従業員の挨拶には応じていたことに立腹し、同人に対し「良い加減にせんか。文句があったらはっきり言え。」等と言って、同人の頬を二、三回平手で殴打し、口中に裂傷を負わせた。
その直後、申請人は右暴行行為を行ったことについて有元社長から諭され、その場で北田へ謝意を表わした。また、当日申請人は北田と二人で仕事に行き、その際も謝意を表わした。
(二) 申請人の右暴行行為は、北田が朝の挨拶に応じなかったとはいえ、それを理由に即暴力を振るったものであって、弁解の余地はないものであり、就業規則七〇条六号、一二号及び同二九条一項六号に該当し七〇条一九号に当たるものであるが、北田に生じた傷害が比較的軽微であって当日の仕事に差し支えが生じなかったこと及びその後申請人が北田へ謝意を表わしていることに照らせば、右行為に対して減給処分を越えた懲戒処分を行うのは著しく酷であって、社会通念上相当として是認することができない。
8 飲酒運転の主張について
(一) 当事者間に争いのない事実及び疎明資料によれば以下の事実が一応認められる。
申請人は、昭和五九年二月二一日の就業時間外の午後七時三〇分頃、自己車両の酒気帯び運転中に衝突事故(物損事故)を発生させて検挙され、同年三月一五日大阪簡易裁判所において罰金二万五〇〇〇円の略式命令(同月三〇日確定)を受けた。
有元社長及び被申請人会社従業員の数人(申請人を含む。)は、就業時間外にときどき飲酒運転を行っていた。
(二) 右申請人の行為は少くとも就業規則七〇条七号に当たる。しかしながら、その刑罰法令違反事由は酒気帯び運転であって比較的軽いものであり、同運転が就業時間外であった上、検挙されないまでも被申請人会社内においては社長以下飲酒運転を行っていたという状況が存していたことに照らせば、申請人に対し譴責処分を越えた懲戒処分を課することは著しく酷であって、社会通念上相当として是認することができない。
9 被申請人会社代表取締役有元弘に対する暴言の主張について
被申請人主張事実を一応認めるに足る疎明は存しない。
10 そこで、本件懲戒解雇が解雇権の濫用に当たるか否か検討するに、就業規則七一条二項には、同時に一種以上の懲戒に該当する行為があった場合には、事情によりその内の最も重い種類の懲戒より更に一等重く懲戒する旨の規定が存する。ところで、右規定は同時に数種の懲戒に該当する行為があった場合に適用されるものであるが、本件のように異時に懲戒に該当する数個の行為があり、これらの行為全体に対して一個の懲戒を課する場合にも同条項は類推適用されると解すべきである。
そうすると、被申請人の主張する懲戒事由については、減給処分以下で懲戒を課するのが社会通念上相当である行為が最も重い懲戒事由であるから、申請人に対し減給処分より一等重い出勤停止処分を越えた懲戒を課することはできず、これに反してなされた本件懲戒解雇処分は解雇権を濫用してなされたもので無効である。
なお、被申請人は、事情として本件懲戒解雇に至った直接の契機に当たる事実等も主張しているが、これらの事実が存在したとしても、右の理由により申請人に対し出勤停止処分を越えて懲戒を課することができないのであるから(減給処分より一等重い出勤停止処分を課する「事情」の一要素として評価の対象となるにすぎない。)、右事実の存否を判断しない。
三 被申請人は、被申請人主張の本件懲戒事由の存在が普通解雇事由を定めた就業規則二四条一〇号の「その他前各号に準ずる理由があるとき」に該当するし、右懲戒事由中、田中・北田に対する暴力傷害行為及び有元社長に対する暴言等の各行為は就業規則二七条一項及び二九条一項三、四、六号に違反し、飲酒運転をして有罪判決を受けたことは就業規則二九条一項三、四号に違反し、その余の懲戒事由のいくつかも別紙一記載の服務規律条項に違反しているので、これらの服務規律違反は就業規則二四条一〇号の「服務規律に違反したとき」に該当すると主張して、昭和五九年一一月二一日付け被申請人準備書面で普通解雇の意思表示を行った。
そこで同主張を判断するに、就業規則二四条一号ないし九号規定の事由は、いずれも、従業員に解雇せざるを得ない程度の就業に適さない能力又は意欲不足が存する場合、被申請人の事業が従業員を解雇せざるを得ない程度に継続不可能又は剰員となった場合、若しくは解雇せざるを得ない程度の従業員の誓約に反する行為があった場合と解すべきであるから、同条一〇号の「前各号に準ずる理由があるとき」には、これらに類した事由が該当するところ、本件懲戒事由が「その他前各号に準ずる理由があるとき」に当たるとの被申請人の主張は、それらの事由が、事業継続不可能・剰員事由に当たるとか誓約違反に当たるとの主張ではなく、申請人に解雇をせざるを得ない程度の就業に適さない事由が存する場合に当たるとの主張と解され得る。また、就業規則二四条一〇号の「服務規律に違反したとき」に該当する場合とは、従業員を解雇せざるを得ない程度の服務規律違反があった場合をいうと解すべきである。そうすると、前記二の1ないし8において一応認定した事実及び検討の結果を総合判断するならば、前記認定の申請人の各行為の存在をもっては未だ申請人に解雇をせざるを得ない程度の就業に適さない事由が存在するということはできないし、その服務規律違反行為も申請人を解雇せざるを得ない程度のものではないから、被申請人の普通解雇の主張も失当である。
四 よって、本件解雇は無効であり、申請人は依然として被申請人に対して従業員たる地位を有するとともに賃金請求権を有する。
疎明資料によれば、申請人の手取り給与金額(総給与額から社会保険料、税金を控除した後のもの)は、昭和五九年一月分が二九万八七九九円、同年二月分が三七万九二三円、同年三月分が二九万三九八二円で右三か月の平均が三二万一二三五万であること、申請人は妻、長女及び次女と同居しており、その生活費は申請人の給与及び妻のアルバイト収入(月四、五万円)によって賄われていたこと、申請人は解雇日の翌日である昭和五九年四月一一日以降の給与の支払いを受けていないこと、及び被申請人は解雇予告手当として三四万三一八二円を支払い、申請人はそれを昭和五九年四月一一日以降の給与の一部として受け取ったことが一応認められる。
以上の事実によれば、申請人が被申請人の従業員として取扱われず、給与の支払が全く受けられないとすれば、申請人に回復し難い損害を生ずるおそれがあるものと一応推認できる。ただ、右事実関係及び申請人が本案の第一審において勝訴すれば仮執行の宣言を得ることによって本件仮処分によるのと同様の目的を達し得ることを考慮に入れると、右申請人が蒙るであろう損害を回避するためには、金二三〇万円及び昭和六〇年三月以降第一審本案判決言渡しに至るまで毎月末日限り金二五万円の仮払いを被申請人に命ずる限度でその必要性が認められ、その余の本件申請部分については保全の必要性を欠く。
五 よって、申請人の本件申請は主文第一、二項記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がなく保証を以って疎明に代えさせることも相当でないからこれを却下し、申請費用の負担につき民事訴訟法九二条但書を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 一志泰滋)
(別紙一)
一 下請従業員田中政博に対する暴行傷害行為(就業規則七〇条六号違反)
申請人は昭和五八年四月一日午後一〇時一〇分ころ、東大阪市荒本北一丁目一九六番地所在の被申請人会社付近路上で、被申請人会社の下請の藤原重機の従業員田中政博に対し、顔面口元付近を一回、顔面右目下付近を三回位、いずれも手拳で殴打したうえ、その場へしゃがみこんだ同人の左脇腹部および左大腿部を数回足蹴りする暴行を加え、同人に「顔面、右背側腹壁打撲、口腔挫創」の傷害を負わせた。
二 錦製作所における服務規律違反(就業規則七〇条一九号、二九条二項二号、一五号違反)、及び作業ミスによる第三者加害行為(同七〇条八号違反)
申請人は、昭和五八年七月五日、仕事先の大阪府守口市所在の株式会社錦製作所において重量作業に従事する際、サンダルばきで仕事をしたのみならず、鉄製バール(長さ約一・二メートル、直径約二・五センチメートル。)を使用して重量物をトラックに積み込む作業を行うに際し、周囲の安全を確認せずに右バールを振り回したため、右バールがトラックの横を通行中の錦製作所社員の頭部に当たり、同人に加療一一日間を要する頭頂部打撲挫滅創の傷害を負わせた。
三 スミダ電機株式会社における不注意事故(就業規則七〇条八号、九号違反)、及び被申請人会社に対する報告義務違反(同七〇条一九号、二九条一項四号、一〇号、二一号、二項一四号違反)
申請人は、昭和五八年一二月二二日午前一〇時三〇分ころ、福島県相馬市馬場町福追三五〇番地所在のスミダ電機株式会社相馬工場内において、被申請人会社の大口の得意先である東洋機械金属株式会社の依頼によるプラスチック成型機の搬入・据付作業中、作業責任者である申請人の不注意から右成型機を工場入口ドアに衝突せしめてこれを破損せしめる事故を起こした。そのうえ申請人は、右事故を被申請人会社に報告しなかったため、被申請人会社は後日顧客先の会社責任者から事故の対応が無責任かつ不誠実であるとして厳しく批判され、申請人の右報告義務違反のため著しく信用を失墜せしめられた。
四 エビナ工業株式会社内における事故(就業規則七〇条八号、九号、二九条一項四号違反)
申請人は、昭和五八年一二月三〇日午後三時三〇分ころ、静岡県田方郡大仁町所在のエビナ工業株式会社内において重量作業中、重量作業用の資材の運搬に際して被申請人会社から持参した運搬具(ミック)を使用せず、エビナ工業所有の旧式の一トン未満のフォークリフトを無断で使用し、しかも右フォークリフトを過積載の状態で運転したため、右フォークリフトがバランスを失して荷くずれを起こし、飛散した尺角(重量作業用の資材の一種で、堅い木でできた一辺が三〇ないし四〇センチメートルの立方体である。)が近くに停車していた大藤工業所の二トントラックのフロントガラスを割って運転席に飛び込むと同時にフロントグリルを損傷させるという事故を起こし、被申請人会社に右損害賠償責任を生ぜしめるとともに、被申請人会社の信用を著しく失墜せしめた。
五 被申請人会社事務所内における被申請人会社代表取締役有元弘に対する暴言及びそれに続く会社倉庫内におけるハンマーによる殴打(就業規則七〇条六号、一一号、一九号、二九条一項六号違反)
申請人は、昭和五九年一月二四日午前九時ころ、被申請人会社事務所において、被申請人会社代表取締役有元弘から日頃の言動について注意されたところ、これに耳を傾けるどころか、「やかましいわ」と反発して会社事務所を飛び出し、同九時二〇分ころ、酒気を帯びて、重量作業に使用する大ハンマー(柄の長さ約一・二メートル、金属部分の長さ約一七センチメートル、直径約七センチメートル。)を所持して突然事務所内に立ち入り、事務所内にいた被申請人会社従業員芳田直に対し、「おい芳田はん、ちょっと席をはずしてくれ」と怒鳴りつけて同人を事務所から追い出し、有元社長に対し、「おい、おまえ今さき何をわしに言うた。わしをおまえはどないおもうとるんや」等申し向けて同人を脅迫した。そして有元社長の「話があるなら静かに話せ」との説得を無視して再び事務所を飛び出したあと、大ハンマーを所持したまま倉庫内に立ち入り、中に保管されていた重量作業用の鉄板にハンマーを叩きつける暴行を行い、被申請人会社の秩序を混乱せしめた。
六 アイスター研究所内における不注意事故(就業規則七〇条八号、九号違反)、及び報告義務違反(同七〇条一九号、二九条一項四号、一〇号、二一号、二項一四号違反)
申請人は、昭和五九年一月三〇日、横浜市緑区藤ケ丘一丁目九番六号所在株式会社アイスター研究所内において、被申請人会社の得意先であるみづほ工業株式会社の発注による乳化試験機の据付作業の際、右機械をトラックから降ろすについて、作業環境の安全確認義務を怠り、トラックを工場建物に近づけすぎたうえ、工場建物の廂の下で安易に荷降ろし作業を行ったため、右機械を吊り上げるトラッククレーンのアームを廂に接触せしめ、廂板を毀損する事故を起こした。しかも申請人は、スミダ電機の場合と同様、右事故の発生を被申請人会社に報告しなかったため、被申請人会社は後日アイスター研究所から抗議を受ける結果となり、信用を著しく失墜せしめられた。
七 同僚の北田孝に対する暴行傷害行為(就業規則七〇条六号、一二号、一九号、二九条一項六号違反)
申請人は昭和五九年二月二一日午前八時三〇分ころ、被申請人会社構内にて、多数従業員の目前において、正当な理由もなく突然に、無抵抗の同僚北田孝の顔面を手拳で数回殴打し、同人に口腔から出血する傷害を負わせた。
八 飲酒運転(就業規則七〇条七号、一三号、一九号違反)
申請人は、昭和五九年二月二一日午後七時三〇分頃、大阪府八尾市美園町一丁目六四番地において、飲酒の上、呼気一リットル中〇・三ミリグラムのアルコールを身体に保有し、自己所有車両(和泉四〇そ一九八八)を運転中、前方不注意の過失により、自車を塩川正行運転にかかる普通貨物自動車(大阪一二か一五九九)の右前側面に衝突せしめた。申請人は右飲酒運転に関して同年三月一五日大阪簡易裁判所から罰金二万五千円の略式命令を受けるとともに、免許停止三〇日の行政処分を受けた。
九 被申請人会社代表取締役有元弘に対する暴言(就業規則七〇条六号、一一号、一九号、二九条一項六号違反)
申請人は、昭和五九年四月七日午後六時四〇分ころ、被申請人会社の営業車両が何者かによって毀損された件で有元社長が申請人に事情を聞いたことを契機として、有元社長に対し、「おい、おまえなあ、わしがやったというんかい。おー、わしの連れてくる極道はなあ、その辺におる極道とはわけが違うんじゃ。がたがたいうならいつでも連れてくるで」との暴言を吐き、同人を脅迫した。
(別紙二)
第二四条(解雇)
会社は従業員が次の各号の一に該当するときは解雇する。但し業務上負傷又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三〇日間、並びに産前産後の女子が法第六五条により休業する期間及びその後三〇日間は解雇しない。
(1) 無断欠勤一四日以上に及ぶとき及び欠勤届を提出しても月間出勤日数一五日未満が二ケ月に及んだとき
(2) 職務能力著しく劣り、その発達の見込がないと認めたとき
(3) 早出残業を理由なく拒否し、その回数が月間三回以上あったとき
(4) 配車責任者の指示を三回以上拒否したとき
(5) 身体もしくは精神の故障(てんかん症、アルコール中毒症の如き)により業務に従事することが不適当と認めたとき、及び長期傷病補償給付をうけるにいたった者で、解雇を適当と認めたとき
(6) 天災地変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となったとき
(7) 事業の縮少、又は合理化の必要により剰員となり、他に適当の配置箇所がないとき
(8) 社会又は経済情勢の変動のため、事業を廃止したとき
(9) 採用の場合における前歴の詐称、その他誓約に反する行為のあったとき
(10) その他前各号に準ずる理由があるとき及び服務規律に違反したとき
(11) 懲戒解雇に処せられたとき
第二七条(服務)
従業員はこの規則を守り、職務上の責任を重んじ、業務について創意工夫をこらし、同僚互いに相扶け、能率の向上に努め、礼儀を尊び、職制の定められた上長の指揮命令に従わなければならない。
第二九条(遵守事項)
従業員は次の事項を守り、職務に励まなければならない。
1 遵守事項一般
(3) 業務遂行に当っては、会社の方針を尊重し、常に上下同僚互いに相扶け、円滑なる運営を期すること
(4) 従業員は常に会社の信用の維持と業績の向上に全力を傾注し、就業中と否とにかかわらず会社の名誉を失墜するような行為をしてはならない
(6) 従業員は得意先においては勿論のこと自己の職場においても粗野な言動をとってはならない
(10) 職務の権限をこえて専断的な行為をしてはならない
(15) 上長の許可を受けないで、みだりに職場を離れないこと
(21) 従業員が会社に提出する書類記録等は正確なものでなければならない。電話又は口頭による報告も同様とする
2 現業員の遵守事項
(2) 就業中はスリッパやサンダルを履いて業務についてはならない
(14) 運行中、事故発生のときは、現場より会社に報告してその指示により応急修理、救援その他適切な処置をとること
(15) 乗務従業員は会社から貸与された制服、制帽、安全靴を着用して業務につくこと。鉢巻、上半身裸体はこれを禁ずる
第六七条(懲戒の種類)
懲戒は譴責、減給、出勤停止及び懲戒解雇の四種とする。
(1) 譴責 始末書をとり将来を戒しめる
(2) 減給 始末書をとり一回について平均賃金の半日分、総額において当該賃金支払期の賃金総額の一〇分の一を超えない範囲で減給する
(3) 出勤停止 始末書をとり一四日以内出勤を停止し、その間の賃金を支給しない
(4) 懲戒解雇 予告期間を設けないで即日解雇する。この場合行政官庁の認定を得たときは、予告手当を支給しない
第六九条(出勤停止又は減給)
従業員が次の各号の一に該当するときは、出勤停止又は減給に処す。但し、情状によっては譴責に止めることがある。
(18) その他前各号に準ずる行為及び第三章に規定する服務規律に違反する行為があったとき
第七〇条(懲戒解雇)
従業員が次の各号の一に該当するときは、懲戒解雇に処す。
(6) 会社の内外を問わず他人に暴行、脅迫を加えたとき
(7) 刑罰法令に違反し、起訴され又は刑が確定したとき
(8) 業務上の怠慢、又は監督不行届によって火災、傷害その他の事故を発生させたとき
(9) 故意、又は重大なる過失により会社に損害を与えたとき
(11) 業務命令に不当に反抗し、職場の秩序をみだしたとき
(12) けんか口論を行い職場の秩序をみだしたとき
(13) 飲酒運転を行い事故を発生せしめたとき
(19) 第二九条(服務規律)に違反し、その情の重いとき
第七一条(懲戒の重複)
懲戒処分を受けたものが、一年以内に更らに懲戒に該当する行為のあった場合には、次によって取扱う。
(1) 同一種類の懲戒に該当する行為をなした場合は、一等重く懲戒する
(2) 異なる種類の懲戒に該当する行為をなした場合は、事情によりその内の重い種類の懲戒により更に一等重く懲戒する
2 前項の規定は、同時に一種以上の懲戒に該当する行為があった場合に、これを準用する。